2022年01月14日

今週の注目疾患  
2022年 第 1 週(2022/1/3~2022/1/9)
【今週の注目疾患】

≪E 型肝炎 ≫
 2022 年第 1 週に市原、千葉市保健所管内から 1 例ずつ E 型肝炎の報告があった。
2 例ともに男性であり、30 代が 1 例と 50 代が 1 例であった。
感染原因・感染地域は不明である。
 2013 年から 2022 年第 1 週までの E 型肝炎報告数は 200 例である。
2013 年では年間累計 5 例であったが、2021 年は年間累計 35 例と増加傾向にある。
200 例のうち男性が 149 例(74.5%)、女性が 51 例(25.5%)と男性が多い。
年代別では、50 代~70 代が多く、143 例(72%)と全体の 7 割以上を占めており、男性、女性ともに 50 代が最も多かった。
 2017 年から 2021 年までの過去 5 年間に県内で報告された E 型肝炎症例 140 例のうち 、推定感染地域別では国内が 103 例(74%)、海外渡航歴(インド、中国、韓国)があり、国外での感染が推定されたのは 5 例(4%)で、国内での感染推定例が多かった。
推定感染原因別では不明が 96 例(68%)で最も多く、次いで豚肉、ジビエ(馬・鹿・猪などの野生鳥獣肉)、レバー等の食肉喫食歴がある者が 37 例(26%)報告された。
また、その他とされた者も 3 例(2%)見られたが、それぞれ海鮮物の喫食歴ありが 1 例、豚舎で豚との接触歴ありが 1 例、登山時の湧水の飲水歴ありが 1 例であった。
また、これら 141 例のうち病原体検査によって E 型肝炎ウイルスの遺伝子型が判明した症例は NESID の登録情報では 5 例(3.5%)にとどまっており、2019 年に遺伝子型 G3 が 1 例、G4 が 1 例、2021 年に G3 が 3 例確認されている。
そのうち遺伝子型 G4 の患者はインドへの渡航歴があった。

 E 型肝炎は, ヘペウイルス科(Hepeviridae)の E 型肝炎ウイルス(hepatitis E virus: HEV)の感染によって引き起こされる急性肝炎である。
潜伏期間は 15~60 日と長い。
発熱、全身倦怠感、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛等の症状を伴い、黄疸が認められるが、不顕性感染も多い。
従来は慢性化しないと考えられていたが、臓器移植患者など免疫抑制状態にある患者の HEV 感染が慢性的な感染を引き起こすことがある。
感染経路は、いわゆる途上国や衛生状況の悪い難民キャンプ等では患者の糞便中に排泄されたウイルスによる経口感染が主で、大規模な集団発生が報告されている。
一方、日本をはじめ世界各地で、E 型肝炎は人獣共通感染症として注目されている1)。

 ヒトに感染する HEV は、ヘペウイルス科 Orthohepevirus 属の 4 つの種のうち Orthohepevirus A に属する。
Orthohepevirus A はさらに 8 種の遺伝子型(G1-G8)、36 種のサブタイプに分類されている。
ヒトに感染する HEV は主に G1-G4 の 4 つの遺伝子型で、途上国で比較的大きな地域流行を起こすウイルスは主に G1 である。
先進国では主に G3 による E 型肝炎が散発的に報告されている。
G3 および G4 は、ブタやイノシシに感染するため、加熱不十分なこれらの動物の内臓肉等の喫食が、国内の主な感染要因と考えられている1)。

 E 型肝炎の流行状況を調査するため、厚生労働省は「E 型肝炎発生時の検体の確保等について」を発出し、各自治体に患者検体の確保、もしくはウイルス解析情報の提出を依頼している2)。
E型肝炎は一般的に潜伏期間が長く、聞き取りによる感染源・感染経路の調査が困難である場合が多いため、事例発生時には糞便や原因と疑われる食品等の検体を確保し、分子疫学的手法を用いた解析を実施することで、集団発生の動向確認の一助とすることが可能である。
過去に国内においても病原体検査によって食品の摂食と E 型肝炎の発症との直接的な関係が確認された事例の報告がある3)。

 HEV の感染経路は経口感染であり、ウイルスに汚染された食物、水の摂取により感染することが多い。
現時点で認可されているワクチンはないため、予防には手洗い、飲食物の十分な加熱が重要となる。
また、清潔の保証がない飲料水(氷入り清涼飲料を含む)、貝類、果物、野菜をとらないように注意する必要がある。
食肉類、特に動物の内臓や豚レバーを食べる際には、中心部まで火が通るよう十分に加熱することが重要である。
食べる前の調理の段階でも、皮膚の傷からウイルスが体内へ入ることのないよう注意を要する3)。

■参考
1)国立感染症研究所:IASR Vol. 42 p271-272: 2021 年 12 月号
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2)2016(平成 28)年 8 月 16 日 健感発 0816 第 3 号 生食監発 0816 第 2 号
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3)E 型肝炎ウイルスの感染事例・E型肝炎Q&A
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【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年1月12日更新)