2022年08月12日

2022年 第 31 週(2022/8/1~2022/8/7)

【今週の注目疾患】
■手足口病
 警報発令継続中(警報開始基準値 5.0 終息基準値 2.0)
 2022 年第 31 週手足口病定点当たり報告数 県全体 7.11 (人) 前週 7.62(人)から減少
 第 27 週に警報開始基準値である定点当たり報告数 5.0(人)を上回って以降、県内では大きな流行状況が続いており、感染予防として手洗いの励行等が重要である。

■薬剤耐性アシネトバクター感染症
 2022 年第 31 週に県内医療機関から本年 1 例目となる薬剤耐性アシネトバクター感染症の報告があった(診断週第 30 週)。
患者の喀痰から検出された菌種は Acinetobacter baumannii であった。

 本疾患が全数把握疾患となった 2014 年 9 月から 2022 年第 31 週までに県内医療機関から計 15例の薬剤耐性アシネトバクター感染症の報告があった。
性別では男性 9 例(60%)、女性 6例(40%)であった。
年代別では 70 代が 5 例(33%)で最も多く、次いで 60 代と 80 代がそれぞれ 3 例(20%)であり、60 歳以上が 8 割を占めていた。
症状別では、肺炎 7 例(47%)が最も多く、次いで敗血症 3 例(20%)であった(重複登録あり)。
推定される感染地域に国外が挙げられていたものは 5 例(33%)であった。
 菌が検出された検体は、喀痰 8 例(53%)が最も多く、次いで血液 3 例(20%)、尿 2 例(13%)であった。
菌種名の記載があったものは 13 例であり、うち 9 例(69%)が Acinetobacter baumanniiであった。

 アシネトバクター属菌は、ブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌に属する細菌である。
土壌や河川水などの自然環境中や住環境中の湿潤箇所からしばしば検出される。
非侵襲性の細菌であり、健常者には通常は無害であるが、感染防御機能が低下した患者において、尿路感染症、肺炎や敗血症、手術部位感染症などの起因菌となり得る。
従来は多くの抗菌薬で治療可能であったが、近年、各種の抗菌薬に耐性を獲得した多剤耐性株が散見されるようになった 1)。
特に Acinetobacterbaumannii が臨床的に重要な菌種とされている。
日本でも複数の院内感染事例が起きているが、諸外国と比較すると多剤耐性アシネトバクターの分離が少ない。
そのため、国外からの持ち込みが警戒される耐性菌であるが、本県は累積報告年数の多い地域とされており、地域への多剤耐性アシネトバクター定着の可能性が懸念されている 2)。

 薬剤耐性アシネトバクター感染症の感染症法上の定義は、広域β-ラクタム剤、アミノ配糖体、フルオロキノロンの 3 系統の薬剤に対して耐性を示すアシネトバクター属菌による感染症の総称である。
届出対象は発症者のみであり、保菌者は対象ではない。2014 年 9 月より 5 類全数把握対象疾患となった 2)。

 薬剤耐性アシネトバクターの主な感染経路は接触感染である。
人工呼吸器などの湿度の高い環境を好む一方で、乾燥した環境でも数週間以上生存できることが知られており、人の皮膚や医療機器、手すり等の院内環境に生息する。
手洗いや消毒が不完全であると、汚染された医療器具や医療従事者の手などを通じて、他の患者に伝播することがある 3)。

 厚生労働省は薬剤耐性アシネトバクター感染症の届出があった際には地方衛生研究所等での試験検査に努めることとしている 4)。
また、保菌者も含め 1 例目の発見をもってアウトブレイクに準じた厳重な感染対策を実施するよう求めている 5)。
院内感染が疑われる際には保健所に報告し、地域の医療機関等のネットワークの支援を得るなどして速やかに適切な対策を実施することが求められる 2)。
 対策としては、日常的な医療環境の衛生管理の実施と標準予防策の励行とともに、接触予防策の徹底、さらに病院内の湿潤箇所、特に人工呼吸器の衛生管理と消毒などに留意する必要がある1)。
標準予防策としては、手洗い・消毒など手指衛生の徹底や手袋・マスクの着用等がある。
接触予防策には個室管理が望ましく、標準予防策に加え、個人防護具(エプロン・ガウンなど)を適切に着用する。
また、疫学的にアウトブレイクと判断した場合には、疫学的調査を開始するとともに、厳重な感染対策の実施(患者の速やかな隔離、周辺の接触者や環境へのスクリーニング検査の実施等)が重要となる 6)。

■参考
1)多剤耐性アシネトバクター・バウマニ等に関する院内感染対策の徹底について
(平成 22 年 9 月 6 日付け厚生労働省医政局指導課事務連絡)
2)国立感染症研究所:薬剤耐性アシネトバクター感染症
>>詳細はこちら
3)国立感染症研究所:多剤耐性アシネトバクター感染症 Q&A
>>詳細はこちら
4)カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症等に係る試験検査の実施について
(厚生労働省通知平成 29 年 3 月 28 日健感発 0328 第 4 号)
5)医療機関における院内感染対策について
(厚生労働省通知平成 26 年 12 月 19 日医政地発 1219 第 1 号)
6) 感染症教育コンソーシアム:中小病院における薬剤耐性菌アウトブレイク対応ガイダンス
>>詳細はこちら

【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年8月10日更新)