2023年11月17日

2023年 第45週
(令和5年11月6日~令和5年11月12日)

【今週の注目疾患】
■カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症
 11 月は薬剤耐性(AMR)対策推進月間である。
「薬剤耐性(AMR:Antimicrobial resistance)」とは、本来ならば効くはずの抗菌薬・抗生物質が効かなくなることをいう。
2015 年 5 月の世界保健機関(WHO)総会において「薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プラン」が採択され、加盟各国に 2 年以内の自国のアクションプランの策定が求められた。
日本では 2016 年に「薬剤耐性アクションプラン 2016-2020(2023 年に 2023-2027 に改定)1)」を決定して AMR対策を推進するとともに、毎年 11 月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」に設定している 2)。
 2023 年第 1 週から第 45 週までに県内の医療機関からカルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症(以下、CRE 感染症)が 53 例報告された。
性別では男性 38 例(72%)、女性 15 例(28%)であった。
年代別では 80 代が 20 例(38%)で最も多く、次いで 70 代が 18 例(34%)、50 代、60 代および 90 代がそれぞれ4 例(8%)であり、60 歳以上の割合が 9 割を超えていた。
菌種別では Klebsiella aerogenes が 18 例(34%)と最も多く、次いで Enterobactercloacae complex 12 例(23%)であった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降、県内では報告数の減少がみられる感染症もあるが、CRE 感染症の報告数は2019 年以前と比較して大きな減少は見られていない。
 2017 年から 2023 年第 45 週までに県衛生研究所で菌種及びカルバペネマーゼ遺伝子(耐性遺伝子)について 288 検体を検査したところ、最も多い菌種は K. aerogenes106 例(37%)であり、次いで E. cloacae complex 92 例(32%)、K. pneumoniae 32 例(11%)であった。
カルバペネマーゼ遺伝子が検出されたのは 72 例(25%)であり、IMP 型 56 例(19%)、NDM 型 16 例(6%)であった。
最も多くカルバペネマーゼ遺伝子が検出された菌種は、IMP 型では E. cloacaecomplex 38 例(38/92, 41%)、NDM 型では E. coli 10 例(10/22, 45%)であった。

 CRE 感染症は、カルバペネム系抗菌薬および広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す腸内細菌目細菌による感染症の総称である。
CRE は主に感染防御機能の低下した患者や外科手術後の患者、抗菌薬を長期にわたって使用している患者などに感染症を起こす。
尿路感染症、肺炎などの呼吸器感染症、手術部位や皮膚・軟部組織の感染症、カテーテルなど医療器具関連血流感染症、敗血症、髄膜炎、その他多様な感染症を起こし、しばしば院内感染の原因となる。
また無症状で腸管等に保菌されることも多い 3)。
 CRE のなかでもカルバペネム分解酵素であるカルバペネマーゼを産生する腸内細菌目細菌(CPE)はβ-ラクタム剤以外の抗菌薬に耐性を示す場合も多く、CPE による菌血症は、カルバペネマーゼ非産生 CRE によるものと比較して治療予後が悪いと報告されている。
また、CPE は多くの場合、カルバペネマーゼ遺伝子をプラスミド等の可動性遺伝因子上に保有するため、薬剤耐性を菌種をこえて伝播させることが知られている。
このため、CRE のうち CPE は院内感染対策上も治療上も区別が必要と考えられており、カルバペネマーゼ遺伝子検査の実施が必要とされている。
カルバペネマーゼにはいくつかの種類があり、国内で多くみられる IMP 型、海外で広がっている NDM 型、KPC 型、OXA-48 型が知られている 3)。
 各機関における感染拡大防止には、全ての患者に対して感染予防策のために行う標準予防策(手洗い、手袋・マスクの着用等が含まれる)と必要に応じた感染経路別予防策(接触予防策)を実施する。
手洗い及び手指消毒のための設備・備品等を整備するとともに、手指衛生は患者や患者周辺の物品に触れる前後で行う。
接触予防策には個室管理が望ましく、標準予防策に加え、室内に入る際には手袋及びビニールエプロン(ガウン)を着用する 4, 5)。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、感染予防・管理(IPC)への意識が高まり、手指衛生及び防護具装着などの実施率や技術の向上が認められる。
この成果を薬剤耐性(AMR)対策にも活用して医療機関の院内感染対策の質を更に高めていく必要がある 1)。

■参考・引用
1) 国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等関係閣僚会議:薬剤耐性( AMR )対策アクションプラン 2023-2027 >>詳細はこちら
2) 内閣官房:薬剤耐性(AMR)対策推進月間(11 月)における取組予定について(令和 5 年度)
>>詳細はこちら
3) 国立感染症研究所:カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症
>>詳細はこちら
4) 医療機関における院内感染対策について
(厚生労働省通知平成26年12月19日医政地発1219第1号)
5) 感染症教育コンソーシアム:中小病院における薬剤耐性菌アウトブレイク対応ガイダンス
>>詳細はこちら

【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況】
 2023 年第 45 週の県全体の定点当たり報告数は、前週の 2.04*人から減少し、1.60 人であった。
 地域別では、長生(3.43)、夷隅(3.00)、柏市(2.43)保健所管内で患者報告数が多かった。
 *前週報告時点では 2.05 人

【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和5(2023)年11月15日更新)